就業規則には、単なる社内ルールではなく法的な位置づけを持ち、労使間のトラブルを未然に防ぐという役割があります。
ここでは、就業規則の作成と見直しの重要性、そして不利益変更について考えていきます。
就業規則の概要
就業規則とは、労働者の労働時間や賃金などの労働条件、職場内の規律について定めた規則集です。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています(労働基準法第89条)。
ここでいう労働者には、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、嘱託社員など、雇用形態に関わらず全ての労働者が含まれます。
この作成義務に違反した場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
就業規則を作成するメリット
就業規則を作成することには、以下のメリットがあります。
- 労使間でのルールが明確になり、認識の齟齬から生じるトラブルを防げる
- 明確なルールが定められていることで従業員が働きやすくなる
- 一部の助成金では就業規則の整備が助成金の申請要件となっている場合がある
就業規則に記載すべき内容とは
就業規則に記載する内容は、法律によって定められており(労働基準法89条)、以下の3種類に分類できます。
絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、法律上必ずその内容を記載しなければならない事項です。
具体的には、以下の事項となります。
労働時間に関する定め | 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務に関する事項 |
賃金に関する定め | 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期、昇給に関する事項 |
退職に関する定め | 退職・解雇事由に関する事項 |
相対的記載事項
相対的記載事項とは、当該事業場で何らかの定めをする場合に、必ず記載しなければならない事項です。
具体的には以下の事項があります。
- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金などや最低賃金額に関する事項
- 食費、作業用品その他の負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
任意的記載事項
任意的記載事項とは、使用者が任意に定めることができる事項です。
任意的記載事項としてよく定められる内容は、企業の経営理念、服務規律、守秘義務、人事異動、SNS利用規定、服装規定などですが、その内容は多岐にわたります。
就業規則を定期的に見直すべき理由
企業を取り巻く環境は常に変化しており、就業規則も一度作成したら終わりではなく定期的に見直さなければなりません。
以下は、企業が就業規則を見直すきっかけとなり得る事情の例です。
- 法改正・判例変更への対応
- 働き方・雇用形態の多様化への対応
- 労働者の声や実態に即した規定への変更
就業規則の不利益変更とは?
就業規則の不利益変更とは、会社が一方的に、従業員にとって不利益になる労働条件の変更を行うことをいいます。
具体的には、賃金の引き下げ、手当の廃止、労働時間の増加、休日日数の減少、福利厚生の変更などが該当し得ます。
不利益変更が認められる場合
使用者は、原則として、労働者と合意することなく、就業規則を不利益に変更することはできません(労働契約法9条本文)。
例外として、就業規則の変更が以下の要素に照らして「合理的」である場合に、労働者の合意がなくても就業規則による不利益変更が認められることになります(労働契約法第10条)。
以下の要素を総合的に考慮して、変更の合理性が判断されます。
- 不利益変更によって従業員がどの程度の不利益を受けるか
- なぜその不利益変更が必要なのか、その理由に客観的な合理性があるか
- 変更後の就業規則の内容が、社会一般の常識や他の同業他社の状況と比べて著しく不均衡ではないか
- (労働組合がある場合)労働組合との交渉が十分に行われたか
- その他の事情(代償措置の有無や、他の労働者の対応、社会情勢など)
不利益変更における注意点
就業規則の不利益変更を行う際には、以下の点に特に注意が必要です。
- 一部の従業員だけに不利益が集中しないようにする
- 従業員へ十分な説明をし、交渉プロセスを議事録に残す
- 従業員が不利益変更に同意した場合は同意書を作成する
- 特に、賃金・退職金の引き下げは経営資料に基づいた合理性の提示を行う
- 不利益変更後の就業規則の内容が、労働基準法などの法令に違反しないようにする
まとめ
就業規則を適切に作成・運用することで、労使間のトラブルを防止し、従業員が安心して働ける環境を整備することができます。
また、法改正や社会情勢の変化に対応するためには、就業規則を定期的に見直すことが不可欠です。
特に、労働条件の不利益変更を行う際には、さまざまな点に留意しなければなりません。
就業規則の作成や見直し、不利益変更について不明な点がある場合は、弁護士に相談することをおすすめします。